| エピソード
一、 入 口
遠くから
おおぜいの歌声が
呼んでいる
「ここへおいで
きれいなものや
おいしいものが
たくさんあるよ」
楽しそうな歌が
樹々の彼方から
響いてくる
「ここへおいで
みんなと輪をつくって
朝まで踊ろう」
おおぜいの歌声が
はずみながら
呼んでいる
樹々の向こうでは
火が焚かれ
花冠をつけた人々が
踊っているらしい
二、 狩 人
(惑星ソラリスのブリューゲルの絵)
雪の上に残された
獲物の足跡を追ううちに
俺様の胸のなかで
獲物が姿を現す
俺様の気配を感じて
やつは逃げるぞ、
そうだ、逃げろ!
俺様はおまえを追いつめる
逃げろ、
追いつめてやるぞ
どこまでも
雪の上を
犬が吠えているぞ
死とは生の糧なのだ
そうだ、逃げろ!
俺様は
おまえをしとめるのだ
そのために
走るのだ
死とは生の糧なのだ
三、 花
森できいた「おとぎ話」
魔法にかけられた王女がいた
森の中で千年もの間
花から花へと
生まれ変わるのだ
しかし、
最後に生まれ変わる花は
枯れない花だ
それが魔法の結末
四、 場 所
森できいた「おとぎ話」
魔法をかけられた場所がある
近づく者は
誰もが呪われるという
しかし、
「そこで呪いをかけられたのだ!」
と告白した人々の人生が
みな不幸な結末に終わったのは
本当に呪いのせいなのか
魔法使いの間でも
疑問視されている
とのこと
五、 風 景
小川を飛び越える
その頭上に
こもれび
六、 宿
窓の外には大きな木
森できいた
あの不思議な歌声が
風にのってきこえてくる
耳なりのように
小川が流れこむ池で
農夫が馬を洗っている
花が咲いている
「あの花も
王女の生まれ変わりさ」
誰かが誰かに言う声
七、 鳥
古い絵のなかで
魔法の鳥が
歌っている
「私は
これでも王子だった
悪い魔法使いに
魔法をかけられ
鳥に姿を変えられた
そのあげくの果てに
絵のなかにとじこめらた」
「動くことも
飛ぶこともできず
何百年もの間
こうして
絵のなかで歌っている」
鳥の
美しい歌声に魅せられて
多くの人が
この絵を所有した
絵の持ち主は次々と死んで
絵は人から人へと
その所在をかえた
けれど
鳥は死なない
いつまでも いつまでも
絵のなかで
哀れな身の上話を
歌っている
動くことも
飛ぶことも
できないまま
この魔法は解けない
夢から覚めることがない
のと
同じくらいに
八、 狩 の 歌
走る足音
歓声
犬の吠える声
獲物の断末魔の叫び声
歓声とラッパ
鉄砲の音
走る足音
心臓の打つ音が
空に満ちてゆく
死とは生の糧なのだ!
ごちそうが
毛皮をまとい
内臓をはらみ
血を脈打ちながら
走っているぞ!
追いつめろ!
死とは生の糧なのだ!
歓声とラッパ
九、 別 れ
疲労と心地よさが
一人の人間に同居するのは
たっぷり働いた夕方だ
犬が影のように従う
夕暮れの里で
仲間と別れると
ごちそうが待っている
森から不思議な歌声が
呼んでいる
呼んでいる
呼んでいる
日が沈む
(1993.11.24.02:37) |